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アイガーの薪

僕の亡父は若い頃にアイガーを登攀した事がある。

 

 

1960年代末、父が山仲間と共にアイガーへ入山した時、麓で一人一束薪を渡されたのだそうだ。

言葉も分からないし、この薪が何を意味するのかさっぱり分からない。

皆と笑いながら「いらない。いらない。」と断って登攀し始めた。

しばらく登って山小屋に到着した所、他の登山者は皆、持参した薪を小屋守に渡して暖を取り始めた。

ここで初めて薪の意味が分かって「しまった」と思ったらしい。

 

 

「あそこのグリンデルワルトのホテルのテラスで登る前にビールを飲んだんだよ。」

「あの山小屋に薪を持っていかなかった。別に文句は言われなかったよ。」

 

「アイガー北壁」という映画を二人で観た帰りに聞いた話だったので、何とも不思議な気持ちになったのを覚えている。