裕次郎みたいな男

ブラブラしていた若い頃、「裕次郎みたいな男がいるからお前に会わせたい」と父に言われて、その「裕次郎みたいな男」と父と僕との三人で会った事があります。

 

当時の父は双極性障害を患っており、極端に金遣いが荒くなったと思ったら、急に鬱状態になって何週間も寝たきりになってしまうような状態で、本当はこんな戯言に付き合いたくはなかったのですが、どうも僕は父に弱い。どんな馬鹿げた事を父がやっていたとしても、ついつい許してしまい、最後には言う事を聞いてしまうような所があったのでした。

 

実際上野で会ったその「裕次郎」は全くもって好漢では無くて、単に父を金蔓に使っていた人だった訳ですが、デザイン事務所を経営しているとかで、父なりに僕への力添をするつもりで会わせただけの様でした。

ぼくは端からこんな事だろうとは思っていたものの、「息子を頼みます。」なんて頭を下げる父の態度と、病で人を見る目の無くなってしまった様を嫌悪しつつ、またその「裕次郎」の人間性を完全に疑っておりました。

 

そんな事を急に思い出したのは、昨夜「嵐を呼ぶ男」をたまたま観たからなのですが、劇中の裕次郎の時代錯誤な男らしさを鼻で笑いつつ、しかし俺も実際こんな古臭い男らしさを良しとしている部分がかなりあるぞ。と思い当たったからなのでした。

「命賭けねえからてめえの夢が叶わねえんだぜ」

なあお父さんよ。実際こう思ってる俺の方がよっぽど「裕次郎みたいな男」じゃねえか。